紙の出版とデジタル出版のどちらが生き残るか?
はじめに
近年、デジタル技術の進歩により、出版業界も大きな変革期を迎えています。特に、電子書籍の普及は、紙の出版物とデジタル出版物の間で競争を激化させ、両者の棲み分けに大きな影響を与えています。
私たちクリエイティブ集団COW AND CATはAmazonのサービスを利用して、紙の出版とデジタル出版の両方を行っています。ですからとりあえずは紙とデジタルのどちらが伸びても大丈夫なのですが、しかし、持ち込んでいただける「本の内容」を検討していく上で、今後の出版市場を予測することは非常に重要です。
そこで今回は、この10年先まで、という限定の中で、紙の出版とデジタル出版はどちらが優勢になるのか、あるいは棲み分けられるのか、と言う点について考えて来たいと思います。
1. 予測:多様化するニーズに対応した棲み分け
1.1 ニーズの多様化
読者の読書スタイルやニーズは多様化しており、紙とデジタルそれぞれに最適な形式が存在します。
紙の出版物:じっくりと腰を据えて読書したい、コレクションしたい、所有感を味わいたい、質感を楽しみたい読者は高額な費用を払っても、こちらを購入するでしょう。
デジタル出版物:手軽に持ち運びたい、価格を抑えたい、検索機能を活用したい、最新情報をすぐに読みたい、という「本」ではなく「情報が載っているメディア」を重視する読者はこちらを選ぶでしょう。
1.2 予測される棲み分け
今後10年間は、読者のニーズに合わせて、紙の出版とデジタル出版が以下のように棲み分けられていくと予測されます。
紙の出版物:
- 高付加価値な書籍:写真集、アートブック、児童書、専門書など、紙ならではの質感やレイアウトが重要視される書籍は、紙媒体での需要が依然として高いと考えられます。
- コレクターズアイテム:限定版や初版本など、希少価値の高い書籍は、所有欲を満たすコレクションアイテムとして紙媒体での需要が維持されると考えられます。
- 体験型コンテンツとの連動:紙の出版と付録のイベントやグッズ、オンラインコンテンツなどを組み合わせた、体験型コンテンツとして差別化を図っていく可能性があります。
デジタル出版物:
- 利便性を重視した書籍:実用書、ビジネス書、ライトノベルなど、価格や手軽さ、検索機能などを重視する書籍は、デジタル出版の需要がさらに高まると考えられます。
- 速報性の高い書籍:ニュース雑誌、週刊誌など、最新情報をすぐに読みたい書籍は、デジタル出版の需要が圧倒的になると考えられます。
- サブスクリプション型サービス:定額料金で読み放題となる出版サービスは、雑誌やコミックスを中心に需要が拡大していく可能性があります。
1.3 棲み分けの根拠
今挙げた予測は、以下の紙、デジタルとも出版界に発生している事実を根拠としています。
電子書籍市場の成長: 2023年の国内電子書籍市場規模は1兆円を超え、今後も年々成長していくと予測されています
https://xtrend.nikkei.com/
読者層の変化: 電子書籍の利用者は若年層を中心に増加しており、今後10年間でさらにその傾向が加速することが予想されます
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000026355.html
出版各社の取り組み: 多くの出版社が、紙媒体とデジタル媒体の両方を活用したハイブリッド型出版や、デジタル限定の書籍の出版に力を入れています。
https://research.impress.co.jp/report/list/ebook/501759
2. すでに起こり始めている事実
2.1 ハイブリッド型出版の増加
紙媒体とデジタル媒体を組み合わせたハイブリッド型出版が増加しています。紙媒体には特典として電子書籍が付録として付属していたり、電子書籍版には限定コンテンツが含まれていたりするなど、双方の利点を活かした取り組みが進んでいます。
2.2 デジタル限定書籍の増加
近年、最初から電子書籍のみで販売される書籍が増加しています。特に、実用書やビジネス書などの出版ジャンルにおいて顕著です。
2.3 サブスクリプション型サービスの普及
定額料金で読み放題となるサブスクリプション型出版サービスが普及しており、雑誌やコミックスを中心に利用者が増えています。
3. 今後の紙出版、電子出版の行方
今後10年間は、紙の出版とデジタル出版が読者のニーズに合わせて棲み分けられていくと予測されます。紙媒体は、高付加価値な書籍やコレクターズアイテム、体験型コンテンツとして需要が維持される一方、デジタル媒体は、利便性を重視した書籍、速報性の高い書籍、サブスクリプション型サービスにおいて需要が拡大していくと考えられます。
テクノロジーの進歩: 電子ペーパーや音声読み上げ機能など、読書体験を向上させる技術が発展していく可能性があります。
4. 今後の展望
4.1 新たなビジネスモデルの登場
AIやビッグデータなどの技術を活用した、新たなビジネスモデルが登場する可能性があります。例えば、個々の読者に最適な出版方法による作品をレコメンドするサービスや、読書データに基づいた学習サポートを提供するサービスなどが考えられます。
4.2 著者と読者の新たな関係
電子出版やクラウドファンディングなどの技術を活用することで、著者と読者がより直接的な関係を築けるようになる可能性があります。著者は読者の反応をリアルタイムに把握し、作品作りに活かすことができるようになるでしょう。
5. 未来にあるもの
紙の出版とデジタル出版は、「出版数」と言う面では圧倒的にデジタル出版が凌駕していくと思われます。
では紙の出版がなくなるかと言えばそうではなく、「紙の本」に付加価値を感じる読者によって一定数の売上は維持されていくでしょう。さらに、単価も高くなると思われるため、結果的には「売上額」としては現状とさほど変化がないかも知れません。
音楽業界でも「CD」が発売されてから「円盤レコード」の新規売上はほぼ0となりました。さらに「配信」の時代になると「CD」さえ売れなくなりました。CDに握手券をつけて売上を伸ばすという方法で一躍音楽業界を席巻したガールズグループも、既にその勢いはありません。
しかしこの段階になって「円盤レコード」の人気が再燃しています。やはり針とレコードの微妙な摩擦音と柔らかい音質という価値、さらに大きくて鑑賞できる「レコードジャケット」と言う付加価値が見直されてきたのだと思います。
いずれにしても、出版する側は紙、デジタルのそれぞれの特性に合わせた付加価値をどうつけることができるか、という点を熟考することが重要だと思います。
私たちも、本を出したいと来られた著者様に対して、現在は全く同じ内容のものを紙とデジタルで出版しています。しかし、今後はそ、紙、デジタルの双方の特徴に合った企画と付加価値をどうご提案して行けるのか、といいうことを目指していきたいと思います。